世界の森のようちえん

デンマークの森のようちえん

デンマークの森のようちえん
デンマークの森のようちえん
スティンルース森のようちえん(Stenlose Skivbornehave)<訪問記>
Fujiこどもの家バンビーノの森 横田聖美

★はじめに
 私たちは2015年10月1日(木)の午前中に、この森のようちえんを訪れました。研修期間中、野外での視察はここだけというのに、研修中唯一の曇り空。肌寒い様な日でした。
これまで訪問した様々な施設で「皆さんが、この素敵な天気を持ってきてくれた。」と歓迎していただいていましたが、本来デンマークのこの季節は、今日のような天候が多いということでしたので、野外でしっかり体感できる日に合わせて、デンマークのこの季節らしい天候を用意してくれたものと思います。

★デンマークの保育園と森のようちえん
日本のように幼稚園と保育園のような区別はなく、基本的にはすべて保育園です。
 乳幼児の保育については各自治体に責任があり、3歳?5歳の94%が保育施設を利用しています。
デンマークの森のようちえんは特別なものではなく、一般的な子育て(保育園)の選択肢の1つと捉えられています。総合保育園から毎日数時間野外へ行く園、週数日は出かける園、毎日クラス交代で出掛ける園、森の中に園舎がある園、建物としての園舎はなく、バスが園舎で毎日野外へ出かける園など、いろいろな形があります。
 保育スタッフ構成は60%までが有資格者で、その他はジョブトレーニングのため、資格のない人を雇うことを国で定めています。
保育士資格を取得するには21歳から3年半学ぶ必要があります。

子ども1人当たりの月保育料は6500krで、この内自治体が75%、保護者が25%を負担することが定められています。兄弟割引やシングルマザーへの援助もあります。
この中で、人件費・バス代・その他保育にかかる費用を賄うそうです。
2004年8月に乳児・幼児保育施設の教育カリキュラム法が社会サービス法(1998年)の中に追加され、各園はカリキュラムに添った運営目的及び方策を文書化し各自治体に提出することが義務になりました。

★人間として対等な関係の中で
デンマークの保育計画(カリキュラム)は、
 (1)総体的人格形成(個人的能力)
 (2)社会的能力の発達
 (3)言語の発達
 (4)身体と運動
 (5)自然と自然現象を知る
 (6)文化的表現法と価値を学ぶの6項目で構成されており、それぞれの項目に
○子どもが学べること、
○練習できる相手、
○どの様に向上させるか、
○保育士ができる事、と言う観点で例が示されています。
このカリキュラムに添って、“先生と生徒”ではなく、“大人と子ども(大きい人と小さい人)という、人間として対等な関係の中で保育が行われています。
6歳で小学校へ入学しますが、8月の新学期前に学校の環境に慣れ、スムーズに小学校生活へ移行できるようにするため、対象児は4月から学童保育に移り生活するそうです。
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★スティンルース森のようちえんの概要
この園は1970年に主婦のグループによって設立され、その後28年間は週3日9時から13時まで森の中で過ごしていました。1998年になると8時から14時まで、毎日の活動となり、正職員が2名配置されたそうです。
2004年には、8時から16時までの保育となり半日勤務の職員が追加されます。
その後2011年には、7時からの保育となり、自治体主催から民間主催に移行し、専用のバスを持ち、4人の職員で運営するようになりました。
現在、子どもは定員の25名、保育士資格有の大人3人、アシスタント1人で運営されています。2歳11か月から入園可能で現在は3歳児が半分位、今後、職員を1名増やし、定員を30名にする予定があるとのことです。
保育料の保護者負担は、保育士の比率が高いなどの理由により、通常より500kr高い2000krだそうです。それでもいつも入園待ちの子どもがいる人気のある園です。

★運営スタッフは
リーダーのシャネッテさんは、アシスタントのリタさんが休みの日を含め、週2日子どもたちに同行するそうです。男性保育士も1名、アシスタントのリタさんは、在職20年のベテランです。職員のうち3人は大型バスの運転ができ、スティンルースの学校内にあるベースで7時から受入れをし、途中通り沿いで子どもをピックアップしながら、その日の活動場所となる森や海へ出かけてゆきます。
職員の急な休みの時にサポートしてくれる人を登録しており、それも都合が悪い場合は保護者で依頼できる人を把握していて、協力を仰ぐそうです。

★基礎などの無い小屋程度はOK
この日訪れた森は森林環境局所有で、家等の建造物は建てられないが、基礎などの無い小屋程度(崩せるもの)はOKで自由に使ってよいそうです。
実際に森の中数か所にブランコがあり、たき火のできる東屋や子どもたちが自由に出入りして遊ぶ小屋などが点在していました。
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★森のようちえんバスの到着
私たちが森の入口で待っていると、新しくかわいい大型バスで子どもたちは到着しました。車内はテーブルに対面の椅子、トイレと小さなキッチンもあり、バスの中は教室です。座席上部の荷物スペースには、さまざまな教具・教材も用意されており、悪天候の時などは、この中でいろいろな活動ができるよう、準備されています。

★保護者はいつ来ても良いが
見学に訪れた日は、4人の3歳児が初登園でした。どの子も親(1?2人)が付き添って来ていました。初日に付き添うことは決まりではなく、両親や祖父母など、いつ来ても良いことになっているが、新入時以外は来ていないそうです。

★持ち物は自分で判断して
バスを降りてから5分程森の中を歩き活動場所へ到着、すぐにおやつ(主にフルーツや野菜スティック)を食べ、食べ終わった子から、遊び始めました。大きい子どもは何か指示される様子もなく、いつもの流れで自分で荷物を置き、おやつを食べ、片づけ、遊び始めました。
ここでは園舎で活動する園の子どもより、小さい時から自分のことは自分でするように促しています。
例えばリュックの中に自分で荷物を入れないと、何がどこにあるか分からなくて自分が困る。
手が寒いと感じるのは自分なのだから、必要であれば自分でリュックに入れてゆき、自分で手袋ができるようにしてゆきます。
木登りをする子、ブランコをする子、倒れた木によじ登りごっこ遊びをしている子、走り回る子、小屋に入ってはダメとちょっぴり意地悪する子、先生に絵本を読んでもらう子など、大人が見守るなかで、自由にのびのびとダイナミックに遊んでいました。
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★日本とどこか違う
 私たちが帰る前には、子どもたちが丸く輪になって歌を披露してくれました。最近の日本では、丸くなって何かをすることが少なくなっているように感じます。
お客様が来て、歌を披露する。となると、お客様の前に整列して、と言う形が多いのではないでしょうか。日本人的配慮だなぁと思いつつ、改めて輪になるって良いなぁと感じました。
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歌のお礼に研修リーダーが手品を披露したり、子ども達と一緒に「大きな栗の木の下で」を歌いました。一所懸命真似をする子どもたちの姿がとても愛らしく、もっともっと一緒に過ごしたい気持ちのまま、次へと向かうこととなりました。

★なぜ森のようちえん?
今日から入園した子どもの保護者にお話を伺いました。
ひとりの母親は、これまで保育ママで過ごしていたが、3歳になったら森のようちえんが良いと考えていました。私は普通の保育園で育ちましたが、子どもにはフレッシュエアを吸ってほしいし、子どもの声が騒音でない環境が良く、入園前に何回か見学もし、3人の保育士がいる事も安心でこの園に決めたそうです。
別の子どもの父親は、今の家庭はテレビやipadなどであふれている。森は何もない所が良い。年の離れた兄2人(15-6歳)は普通の保育園で育ったが、その時は森のようちえんを知らなかったから。と話してくださいました。

★子を思う親の気持ちは日本も同じ
はじめて“森のようちえん”を見た方は、「すごいなぁ」「日本とは違うなぁ」と感じたのではないかと思いますが、私は日本の森のようちえんの子どもたちと一緒だなぁと、とてもほほえましく見ることができました。
森のようちえんを選択する理由も、日本の親たちと変わりなく、デンマークに特別な何かがあるのではなく、子を思う親の気持ちは同じなのだと少し安心しました。

★森のようちえんからのつなげ方
日本でも「自分で考え、自分で行動できる子ども」ということは、目標とされています。
今回の訪問で、森のようちえんの子どもは日本も変わりなく見えましたが、中学生くらいを比べるとかなりの差がついているように感じました。
森のようちえんからどのように繋げてゆくかが、これからの私の課題だと実感した研修となりました。
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※スティンルース森のようちえんのホームページ見つけました。
(全てデンマーク語ですが、参考まで)
http://www.skovboernehave.dk/index.htm

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